倫理学は決して偏屈な内容ではないという事
2021/10/28 08:01
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:岩波文庫愛好家 - この投稿者のレビュー一覧を見る
倫理学というと、道徳的、或るいは哲学的などと敬遠しがちなイメージが多少あるかもしれませんが、本書は見事にそれを払拭してくれる恰好の良書だと思います。
『人を助けるために嘘をつくことは許されるか』、『他人に迷惑をかけなければ何をしてもよいか』など、身近に考えられる15の投げ掛けがありますが、個々の章で投げ掛けに一答するのではなく、最後の15章で本書における結論が述べられてあり、構成もなかなかのものでした。
日常生活におけるあらゆる問題を通して現代の倫理学というものを知る入門書です!
2020/04/08 11:59
2人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ちこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、現代の倫理学の原理的な問題を考えるために、日常生活で出会う具体的な様々な問題を考えることを通して、倫理学で取り扱われる内容を明らかにしていこうとした画期的な倫理学入門書です。同書では、難しい術語や学説の違いなどはほとんど記載されておらず、一般の方々が読み物として楽しく読め、その結果、倫理学というものを知ることができるようになっています。同書の構成も、「人を助けるために嘘をつくことは許されるか」、「10人の命を救うために1人の人を殺すことは許されるか」、「10人のエイズ患者に対して特効薬が1人分しかない時、誰に渡すか」、「エゴイズムに基づく行為はすべて道徳に反するか」、「どうすれば幸福の計算ができるか」といった素朴な疑問からなっており、とても読み易く、理解し易い構成となっています。
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「倫理」とは何を指すのか。辞書(大辞林)で引いてみると「人として守るべき道。道徳。モラル。」という説明書きがついていた。ではその道徳とは?モラルとは?「人として守るべき道」とは?この本では「人を助けるために嘘をつくことは許されるか」「他人に迷惑をかけなければ何をしてもよいのか」「10人のエイズ患者に対して特効薬が1人分しかない時誰に渡すか」などが例題としてあげられている。社会の中での生活で、このような「選択・決断」を迫られることは多々ある。そのときどのような道をとるべきか?真の「倫理」とは何か?そんなことを考えさせられる本。
大学でとある授業のテキストとして読んだ。一辺倒の答えを教えられるのではなく「考える」ことの深みを味わえたと思う。
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哲学的な問題に対して、エッセイ的にまとめた短編解説書のような本。
功利主義やカント主義、ロールズの自由主義などを解説してくれているが、
いかんせん短編なので、常に物足りなさを感じてしまう。残念。
入門書なので、政治哲学について知見がない人が読み物的に読むにはいいかもしれない。とくに、サンデルなどに興味をもった人がこの本を読むと、サンデルの議論がオリジナルなものではなく、歴史的に議論され続けてきた不朽のテーマを彼が扱っているのだということがわかる。
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名前のとおり、近代の倫理学事情を諸概念の丁寧な説明と共に紐解いて行く入門書。著者の意見が前面に出ているように思えるところが散見されるが、おそらくほとんどは現代倫理学の前提とされているような内容だろう。そのあたりが気になるだろうと思う人は、あとがきから読むと、たぶん気にならなくなると思うので吉かと。倫理学入門の良書。
J.S.ミルの『自由論』や、カントの『道徳形而上学原論』を読んでいたので、本書にそれらの引用がかなり多かったので、こういうのもあったなーとか、こういう見方もできるかー、など考えながら読んだ。こちらを先に読んでも理解を助けるはずなのでよいと思う。
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応用倫理学当代第一人者が、われわれ一般生活者のために、学の見識を保ちながら、わかりやすく書かれた本である。
現代の倫理学で議論される原理的な問題と応用倫理学で取り扱われる内容を、明確に描き出したいという著者の思いが充分伝わっていると思う。
松岡正剛風に言うと、何と行っても目次がいい。実に素晴らしい編集がなされている。「人を助けるために嘘は許されるか」とか、「どうすれば幸福の計算ができるか」、「現在の人間には未来の人間に対する義務があるか」など、目次を見たらその解を知りたくなる項目が何と15項目も並んでいるのである。いずれも「なるほどなぁ!」とうなずかされてばかりだった。
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倫理を授業で一度たりとも習った事ない自分でも、面白く読めた。
「人を助けるために嘘をつくことは許されるか」や「10人の命を救うために1人の人を殺すことは許されるか」など、それこそ千差万別にありそうな解を、古今の倫理・哲学者たちの意見を参考にもっとも正しいと思われう答えを導き出していく。前者の「人を助けるための嘘」については、「誠実は絶対的な義務」といった大哲学者カントは例え、その人を助ける為でも、嘘はだめ!という事らしい。カント曰く、誠実(嘘をつかない)に背く時は、自分もしくく相手を特別視する事になり、例外化が発生する。その事により例外の一般化が発生し論理の矛盾を犯してしまうなどの意見がある。
現代人はおそらく深く考えずに、人の為になる嘘はOK!のような意見が多数だと思うが、論理的に理由を説明できる人は何名いるのだろう?自分は1年ほど前は「この世のすべての人、それぞれの思想は正しく肯定されるべき」と、他人を尊重したいと考えていたのだけど、そうすると、殺人等の犯罪も肯定する事になりかねない。人生を生きていく上で、どうしても間違っている!と思う事がたくさんある。でも、そういった時に、善悪や罪と罰。それらの答えが自分の中で出ていないと、いけないと思う。少なくとも自分が納得できないから…。
この本は一度だけでは、もったいないので何度も読むことにしよう。
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この本は、応用倫理学では有名な加藤尚武教授が放送大学のテキストとして書かれたものに、本人により加筆されたものである。テキストらしく、古典的な倫理学から応用倫理学までの重要な論点がざっと解説してある。
語り口はやさしく、それぞれの論点が、簡潔ながらとても分かりやすく説明してある。カント、ヒューム、ロールズなどの考え方が端的に示されると共に、新しい論点である生命倫理学や環境倫理学についても触れられており、倫理学の鳥瞰図を示す形を取っている。
また、この本は文庫サイズで、正味250ページを割るというボリュームから推察される通り、個々の論点の詳述に関しては当然期待すべくも無いだろう。分かりやすく鳥瞰図を示し、必要に応じ何を調べれば良いか、何が倫理学の論点として議論されてきたのかを学習者に伝えることができれば良いわけだ。
その点、確実にこの本は目的を達成している。自由主義と共同体主義、愚行権についてなど、一般に倫理学の論点として語られるものはほぼ網羅してあり、次のステップに入ることがこの本を読むことによりとても容易になる。こういう書物は倫理学の分野には以外と無かったのである。
また、それぞれの章(全15章)が「人を助けるために嘘をつくことは許されるか」のように、設問形式になっており、興味を喚起しやすいのも特徴だ。
著者の結論はかなり唐突に示されることがあるが、気にすることはない。哲学系の世界では、そもそも結論は自分で考えるものだし、きちんと自分なりの結論を見いだすためにはにはもう少し詳しい本を読まなければならない。それはこの本の範疇を超える部分なのである。
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応用倫理学のケース集、問題集として読むのがよい。論拠の示されない不十分な論証にもとづいて、断定的な主張が乱暴な言葉遣いでいそがしく継ぎ足されて行く。あとがきで著者も言っているとおり論争の材料として読むべき。体系的な教科書としては、入門・医療倫理を勧める。
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サンデル、ロールズあたりがちんぷんかんぷんな方には此ぐらいから始めるほうがよいのではないかと思います。全体の見取り図がわし掴みにできます。
元々放送大学の教材だったかと思いますので、教科書的紹介風になりますが、壺は押さえていると思います。
ただし、げしげしと原典(邦訳含め)を読んでいる人間には、少し物足りないでしょうか。
いずれにしても教科書としては良くできておりますし、対話型授業の教材としての活用も容易かと思います。
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倫理学は、人が社会的存在として生きていく上での様々な問題につて、それをどのような規範に基づいて考え、解決していくかを考究する学問である。本書は現代社会にある多くの道徳的な問題やジレンマについて、多くの例を挙げながら解説している。
本書の基になっているのは放送大学の教材として著されたものである。15章それぞれの内容は現代社会の倫理構造の解明を試みており、さらに最も現代的な問題を扱う生命倫理学、環境倫理学についても考察されている。
第1章「人を助けるために嘘をつくことは許されるか」では、倫理主義であるカントの「誠実の義務は絶対的である」とういう主張を紹介し、我々には常に決断、比較、選好の機会があり、「より大いなる善」または「最小の悪」を選んだつもりになるが、誠実、正義、人命などに共通の尺度がない以上、実際は比較不可能なのであると述べる。
第2章「10人の命を救うために1人の人を殺すことは許されるか」では、生存率最大の原則という単純な功利性の原理だけで生命の問題を扱うと、個人の生存権の絶対性が成り立たなくなることを示す。
第3章「10人のエイズ患者に対して特効薬が1人分しかない…」では、「最大多数の最大幸福」こそ、あらゆる立法の原理であるとするベンサムとミルの「功利主義」について述べ、「最大幸福原理」と「平等原理」は調和しないことを示している。
第6章「判断能力の判断は誰がするか」では、妊娠中絶、臓器移植、安楽死などの現代社会が直面する問題について、「人格の範囲を定める」事の困難さと生命倫理学の葛藤を述べている。著者は、バイオエシックス(生命倫理学)を日本に導入した主要人物である。
第11章「他人に迷惑をかけなければ何をしてもよいか」では、最も現実的な倫理基準であるとされている「自由主義」の原則「①判断能力のある大人なら、②自分の生命、身体、財産に関して、③他人に危害を及ぼさない限り、④たとえその決定が当人に不利益な事でも、⑤自己決定権を持つ」という5つの条件と、その問題点が要約されている。また、人間を個体とみなす「自由主義」に対して、人間をどこかの共同体に帰属するものとみなす「共同体主義」の主張についても述べている。『これからの正義の話をしよう』の著作で人気のサンデルは代表的な共同体主義者の一人である。
第13章「現代の人間には未来の人間に対する義務があるか」では、地球を守ることは、資源や環境に関して一方的な利害関係はあるが共時的相互関係はない未来の世代に対して現代の世代が負う責務であると断言している。
それぞれの章で述べられている身近な問題とそれに対する倫理学的考察は、どれも大変興味深いものであり、読み物としても面白い。「倫理学」などと身構えずに読んでみて欲しい。
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サンデル氏の討論型授業のような形式で倫理的な問題を考えることは楽しい。
しかし、心理学もそうだが学問になると非常に取っつきにくくなる。
この本もその例で、サンデルの著作から関心を持った人の興味レベルだと弾き飛ばされる危険性が高い。実際私も、100ページを超えるくらいになってパンク状態であった。
この本の正しい読み方は、目次を読んで本当に微妙な問題だなと思った章を選んで読むことである。
最初から全部を読み通そうなんて思っちゃあいけない。また、自分の中で既に結論がでてしまうお題は見なくてもよろしい。
そのくらい自分の意識を絞って読まなければ、歴史の教科書レベルの退屈さに溺れること請け合いである。
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倫理学の概要をさらうにはちょうど良い量です。
内容もわかりやすい。
もともと課題のために買った本で時間に追われながら読みましたが、いま読み返すと興味深い事も書いてありました。
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現代の倫理学についての入門書。以下、理解の及ぶ範囲で要約を試みてみる。
倫理的決定とは「AよりもBの方がよい」という判断を下すことである。
現代倫理の主流はJ.S.ミル『自由論』に見られる功利主義的自由主義である。
自由主義の5つの条件として、
①判断能力のある大人なら
②自分の生命、身体、財産などあらゆる【自分のもの】に関して
③他人に危害を及ぼさない限り
④たとえその決定が当人にとって不利益なことでも
⑤自己決定の権限を持つ
が挙げられる。
ただここから、実際上の様々な問題も提起されることになる。
①子ども、呆けた老人、障がい者にどこまで判断能力を認めるか
②どこまでが自分のものか。例えば自分の生命を自由に扱っていいのか。
③他者に危害を与えなければなにをやってもいいのか。
④愚行を行う権利を与えていいのか。
⑤個人は負荷なき自己か、負荷を負った自己か。
一方カントは厳格な倫理を提示する。
「君の格律が普遍的な立法の原理となるように行為しなさい」という定言命法だ。
例えばある人が「約束を破る」と心に決めたとする。もし皆が同じように「約束を破る」と心に決めたとしたら(普遍化)、誰も約束をしなくなる。これでは最初に決めた格律と矛盾してしまう。よってこの格律は倫理的に間違いだということになる。
しかし人間はカントの考えるような理性的な人間であるとは限らない。カント倫理学が最高線の倫理だとするならば(厳密にはさらにストア派の完全主義があるが)、功利主義は最低線の倫理を提示すると著者は述べる。
「最大多数の最大幸福」を掲げる功利主義は「規制しなければならない最低限の行為に抑止効果を持つ最小限の刑罰」を与えることとする。こうすることで例えば、盗みをしただけで死刑になることはないし、違法駐輪は迷惑行為だが刑罰を貸すほどではない等の判断で人々の幸福度が最大になることを目指す。
こうした数々の理論は一長一短があり、細かい所で対立している。そういった対立を、「人を助ける為に嘘をつくことは許されるか」「10人の命を救う為に1人を殺すことは許されるか」「現代の人間に未来の人間に対する義務があるか」など具体的な問を想定しつつ、分かりやすく紐解いてくれる。
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内容は「最大多数の最大幸福」を原則とする功利主義に批判的検討を加えつつその代案を探っていくというもの。
章ごとに「10人の命を救うために1人の人を殺すことは許されるか」などのテーマが設定されており読みやすい。ただ、必ずしもテーマの問いに答えが与えられるわけではない。判断は読者に半分委ねられている。
「囚人のジレンマ」が示唆するのは民主主義の欠陥である(個々人の欲望に従った選択は本人にも他人にも不利益をもたらす可能性がある)と指摘しているのは興味深い。が、本当にそうだろうか。囚人のジレンマの仮定に登場する囚人たちは互いにコミュニケーションを禁止されている。しかし現実社会の民衆は自由にコミュニケーションをとることができる。まして今はインターネットの時代である。みんなで何か重大な決定をする際には、十分な議論を尽くして合意を形成しておくことはできるはずだ(少なくとも論理的には可能だ)。現代人は社会から独立したアトムではないし、であるべきでもない。
終わりに近い章では、「正義は時代や場所によって変わるもの」という相対主義のもっともらしい言説の矛盾を説いている。相対主義のレトリックは、過去の事件(戦争など)を評価するときに使いがちなので注意しなければならない。