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まず、読み始めて最初に思ったのは、日本語のタイトルがミスリードかもしれない、ということ。『「協力」の生命全史」』とあるから、社会学や人類学のような視点かと思うと、筆者の専門は進化論や行動学のような生物学寄り。(「生命全史」という箇所からそれを読み取らないといけなかったかも。)
とはいえ、第4部などで社会学や人類学の側面からの記述がされている。
筆者の書き口は学術的な色を強く感じた。研究の設計からそこから分かった関係、しかし、それは相関関係であって、因果関係ではない。など、安易に断定しない点でとても信頼できる。
その一方で、文章がどうしても冗長的になってしまうので、少しメッセージが受け止めにくいこともある。
総じて、「協力」ということを進化論的・遺伝学的に迫る良い本だった。これが気に入れば、ルトガー・ブレグマン氏の『Humankind 希望の歴史』がより多面的に「協力」を論じているように思うので、おすすめ。
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「ヒトが協力するのは進化的な理由があっただろう」「協力をする種はヒト以外にも存在するがヒトとその種の協力は同じなのか」といった話を、多細胞生物の組織と真社会性のコロニー、ヒトの社会とのアナロジーや、アリ、ハチ、ホンソメワケベラ、シロクロヤブチメドリ、ミーアキャット、そしてもちろんチンパンジーやゴリラの他の大型類人猿との膨大な事例との比較でたどっていく本。
結論として、ヒトがここまで脳と社会性を発達させ、結果として繁栄できたのは協力と集団のルールをつくる能力があったからで、見知らぬ相手を信頼するのは難しいが、気候変動など世界規模の問題への対処はヒトの協力と規範をつくる・変える能力によって成し遂げられる、といったことが書いてある。
全体的に(私が読んだことある)進化心理学で印象づけられがちな「子種撒くのがオスの本能」に対し「メスは出産も育児も生殖は負担だから、ヒトのオスはメスに協力するように進化してしてんだよね」みたいな感じなので読んでてストレスが少ない。
ただ、出アフリカ以降の古い時代の人類社会について、現代の狩猟採集民社会を類推に使ってるのと、フィンランドのキリスト教会の記録でもって「ヒトは一夫一妻制で夫以外の父親の子も少ない」としちゃうのはどうなのかな。
東洋を家族中心の集団主義、アメリカとヨーロッパを家族の外の人もコミュニティに入れる普遍主義としてしまうのも、トランプ支持者や欧州の移民排斥は無視ですか?と思っちゃう。
全体としては生物の協力と罰の行動の事例、真社会性のコロニーを多細胞生物の組織とみなして類推を展開していく考え方はおもしろく勉強になった。
『子育ての大誤解』https://booklog.jp/users/kuritahirahara/archives/1/4150505055 読んだ時の感じに近い。
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生物学の視点から“協力”行動についてを人類を含む生物全般から研究している一冊です。
単細胞の集合体である我々自身についての説明から始まり、他者への利他的行動、個体とがん細胞の関係、配偶と育児の仕組み、動物界の協力例、善い協力と悪い協力、評判と見栄の関係…などへ展開していきます。
協力とは個体が生き残る確率を上げるための保険であり、人間の社会生活におけるそれも仕事を軌道に乗せるための保険などとして役立っています。
大きな成果を得るためには個体より集団での協力が不可欠であり、集団であることの不利益と比べて協力による利益が勝る場合に問題なく機能します。
しかしこのバランスが崩れれば反乱が起き、悪意に基づく協力が組まれれば多数の犠牲により少数が成功を掴む結果も有り得るのです。
協力とは道具と同じく扱う者次第で過程と結果が大きく異なる諸刃の剣であることが、様々な例を用いて解説されています。
日頃意識せずに行っている“協力”行動ですが、凄まじい力を持っているのだなと考えさせられました。