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青山透子『日航123便墜落 圧力隔壁説をくつがえす』河出文庫。
日航123便墜落の真実に迫るノンフィクションである。日航123便の墜落は事故だったのか、それとも事件だったのか。著者の青山透子は一貫して、後者の事件説を主張している。
戦時中の大本営発表、東日本大震災による福島第一原発事故や新型コロナウイルス感染禍での政府の対応を考えれば、日航機墜落の本当の原因を政府が責任逃れのために隠蔽したとしても不思議ではない。
また、青山透子の提示する事実やデータからすれば、日航機墜落は事件だと言うのは信じるに値する。もしかしたら提示されていない事実やデータでその説を強力に覆すものがあるのかも知れない。いずれにせよ、フライトレコーダーの生データを公開すると共に、相模湾に沈んでいる墜落機の尾翼を早急に引き揚げ、真相を明らかにすべきではないかと思う。
墜落から2日後に著者は日航機墜落事件と書かれた公文書を発見する。当時の米国大統領のロナルド・レーガンが中曽根総理宛に書いた手紙に外務省職員による日航機墜落事件という文字が書かれている。当時の外務省では日航機墜落を事故ではなく事件として認識しており、その後、事実を歪曲させ、事故で決着させたのだと主張する。
また『事故調査報告書・別冊』に記された『異常外力着力点』から『後部圧力隔壁説』の矛盾を科学的に明らかにしている。もしも、後部圧力隔壁の破損による尾翼の損傷が事故原因であれば、機内から大量の空気が急激に漏れたはずなのに、そうした事実は見受けられないのだ。
そして、青山透子が辿り着いた仮説は他の著書でも明らかにしているように、次週に日米合同訓練を控えた自衛隊が炸薬の入っていない訓練ミサイルを使い、日航123便を敵機に見立てて発射する訓練中に訓練ミサイルを誤射してしまい、尾翼を損傷した日航123便は御巣鷹山の尾根に墜落する。防衛庁と政府は事件を隠蔽するために御巣鷹山の尾根で生存者と共に痕跡の残る機体を焼き払ったという。
定価990円
★★★★★
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以前青山透子の著作に初めて触れたとき、日航123便墜落事故をめぐる数々の目撃証言や矛盾点に色めき立ち、こんなにも公式発表と違う世界があるのかとワクワクした記憶がある。ファントム2機の追尾、オレンジ色の物体、ガソリンとタールの臭い、炭化した遺体 - どれも謎解き的な構造を持ち、彼女の筆致も相まって一気に引き込まれた。
今回本書を読んで改めて思ったのは、やはり慎重な検証が不可欠だということ。CVRの非公開や相模湾での捜索消極など、政府側の対応にツッコミどころが残るのは確かだし、情報公開のあり方や初動対応の課題を指摘する意義は大きいと思う。ただ、青山氏の主張は目撃証言や推論に依る部分が多く、圧力隔壁破断説を覆すだけの決定的な物証は提示されていない。異常外力の着力点という言葉に強く引っ張られているが、飛行機の通常動力以外の力という広い意味で使われている可能性を考えると、必ずしも外部衝突を示しているわけではない。同様に、外務省文書に「事件」と記されていたことに過剰にこだわる論調にも、言葉のイメージに引っ張られすぎている印象を受けた。
結局のところ、「物証がないのは政府が隠したからだ」「公開されていないのは都合が悪いからだ」という論法を採る限り、いくら反証しても「それも隠された」と言えてしまう。この構造は反証不可能であり、科学的議論とは言えない。最初に感じたワクワクは、反政府バイアスと権威バイアスの二重のバイアスに自分自身も乗せられていたのかもしれないと、冷静に振り返ると思える。
総合的に見れば青山透子氏の問題提起は事故の記憶を風化させず、検証を続けるために意味があるとは思うが、合理性の観点では国交省の公式説明(圧力隔壁破断説)の方が現時点では優れているというのが自分の結論かな。新たな確たる物証が提示されない限り、この立場を変える理由は見当たらないと思う。
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もともと、公式に発表されている圧力隔壁の破損による墜落説にはどこか腑に落ちない部分を感じていた。自衛隊の関与を疑う声があることも耳にしてはいたが、正直なところ、それらは陰謀論の域を出ないと考えていた。
しかし、本書はその先入観を根底から揺さぶった。圧力隔壁説が、真の原因を覆い隠すために作られた「方便」であるという主張が、丁寧かつ論理的に展開され、信頼できる資料や証言をもとに検証されている。その過程を追っていくうちに、これまで「常識」だと思っていたものが、いかに脆く、作為的なものであったかに気付かされ、読後には圧力隔壁説が誤っていたという考えを受け入れざるを得なくなった。
一方で、本書が示す“自衛隊のミサイルによる撃墜”という説については、確かに状況証拠が多く揃っているものの、決定的とはまだ言い難いとも感じた。なにより、政府が詳細な情報を長年にわたり非公開としている以上、真相への道のりは極めて険しい。
それでも、遺族の方々の心情を思うとき、一刻も早く政府が真実を明らかにする責任があることは疑いようがない。これは単なる過去の事故ではなく、今もなお終わっていない問題なのだと痛感させられる一冊だった。